バッティングセンターは知っている…!?

この間、歌舞伎町が一斉摘発された。その様子をTVニュースで観ていた。1200人の警官と報道陣が通りに溢れる大規模な摘発である。最近、歌舞伎町は中南米系がアブナイ、という噂を聞いていたが、やはりその地域の関係者が数多く摘発を受けたようだ。

で、なんとなく気になって、翌日の深夜、歌舞伎町を歩いてみる。

表通りは相変わらず酔客で溢れているが、一旦、裏通りに入ると、さすがにひと気はまばら、いつもは路上に溢れている呼び込みもほとんど見当たらない。やはり昨日の今日だと、こんなに静まり返るものなのか!?

「お兄さん、お兄さん、どう?どう? イイコいるヨ!」

路地の影から片言の日本語を操るアジア系の若い女性が現れる。振り返ると結構美人。相手はすかさず当方の腕を取り、身体を密着させて小声で誘いを掛けてくる。

「マッサージ、イイコ、いっぱい、本番OKヨ…」

ウーン、さすが歌舞伎町は、司直の摘発にも負けないんだな。人が入れ替わっても、時が流れても、この街のエネルギーは変わらない。

「で、いくら?」
「イチゴでいいよ」
「イチゴかあ、キミが相手なら考えてもいいけど…」
「ワタシはダメ、もっと美人、いっぱい、いるよ」

こういった店は、客引きと、やり手、サービスの3者の女性で成り立っている。客引きはふつうサービスをしない。若い留学生のアルバイトだったりする。しかも可愛い。で、こんなに可愛い女性がサービスをしてくれるのかなあ、と思うと、かなりイメージが違う場合がある。要注意である。

「お兄さん、この階段上がってよ、イイコいるから」
「ワルイね、今、健康のためにウォーキング中なんだ」
「ウォーキング中!?」
「そう、健康のために! 歩く。わかる?」

風林会館の側までくる。ご存知の方もいるだろう。裏のメインストリート。いつもは客引きで溢れ、歩くのもままならないが、今夜は静かである。客も少なく、呼び込みもいるにはいるが、いつもと違って話し掛けて来ない。

「静かだね」
「お客さん、どこへ行きたいの」
「健康ウォーキング中!」
「もっと運動になるものがあるよ」
「知ってるけど、心臓が弱くて」
「大丈夫ですよ。上が弱くても下が強ければ…」
「ウン!? 今夜はお客が少なくて商売にならないね」
「明日には…いつもの空気が戻りますよ…」
「きっと、そうだね」

街が当方を拒否しているような空気がある。と言うより、摘発後の街を見に来た野次馬には早く出て行って欲しいのかも知れない。歌舞伎町で育った当方なのに、なんとなく出張で立ち寄った地方の繁華街のようで、よそよそしい。

しばらく歩くと、バッティングセンターに出る。近くまで行くとボールを打ち返す金属音が耳を突く。いつも不思議に思っていた。なぜ、ココにバッティングセンターがあるのか?

ところで、ココで最後にバットを振ったのはいつだっけなあ…?

…ウーン、そうだ、思い出した…

通いつめたスナックのアキちゃんを、やっと閉店後に連れ出したのは良いけれど、食事が終わって、いざ出陣ってところで、

「今日はアレだから」

の一言で、置き去りにされた夜だった。あの爽やかな笑顔は今でも忘れない。

しかし、たまには男も言ってみたいよね。

「オレ、今日はアレだから、ダメなんだ」

そう言われて、男に置き去りにされたオンナは、一体どうすればいいのだ。

ウン!?

そうだったか。何年も経って、ようやく思い当たる。歌舞伎町のバッティングセンターは、当方のように、その夜、バットを振れなかった男の自慰行為の場だったんだね。そう思うと、バッティングをしている男たちもイジらしい。けれど、やっぱ当方としては、今日はアレだから、と言って、爽やかな笑顔で去っていく女性の方に、気持ちを残してしまうんだね。

そう。深夜、男たちをバッティングセンターに追いやる夜の街の女たち、悔しいけど、ヤッパ大好き。